民法改正~原状回復について~
賃借人の原状回復義務及び収去義務などの明確化
今回は、民法改正シリーズ その2「原状回復」についてご説明いたします。
前回ご紹介した修繕権は、賃貸借継続中のルールでしたが、今回は賃貸借終了後のルールの改正についてです。
↓
●賃貸借終了後のルール
- 賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
- 敷金に関するルールの明確化
※敷金に関しては、次の機会にご説明いたします。
原状回復とは
ここで言葉の意味を確認しましょう。
原状回復:賃貸物件を退去する際に入居時の状態に部屋を戻すこと
この原状回復でよくトラブルになるのが、
「貸主側と借主側のどちらの負担で修理するのか」
という点です。
今回の民法改正でより詳細に明記されることになりました。
改正民法
それでは、実際にどのように改正されたのかをみていきましょう。
【改正民法621条】(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
原状回復は、一般に通常消耗及び経年劣化はその対象に含まれないと解されていましたが、民法の文言上では、明確ではありませんでした。
今回の改正において、
賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと、しかし、通常消耗や経年劣化については原状回復義務を負わないことが明記されました。
貸主負担、借主負担
具体的にどういったものが貸主負担、借主負担になるのでしょうか。
貸主負担になる原状回復
通常損耗、経年劣化
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ
- 地震で破損したガラス、鍵の取替(破損、鍵紛失のない場合) など
※通常損耗とは、賃貸借契約で定めた目的に従って使用収益した場合に発生した損耗
借主負担になる原状回復
特別損耗
- 引越作業で生じたしっかき傷
- 日常の不適切な手入れもしくは用途違反による設備等の毀損
- タバコのヤニ、臭い
- 飼育ペットによる柱等の傷・臭い など
住んでいれば、部屋は傷んできますし、生活のためについた跡(家具の設置跡)などは、貸主の負担になります。
借主の瑕疵による傷などは、借主の負担となります。
オフィス、店舗等の事業用賃貸の場合
事業用賃貸の場合はどうなるのでしょうか。
以下のような判決例があります。
【東京高裁平成12年12月27日判決】
民間賃貸住宅とは異なり、事業用ビルにおけるオフィス賃貸借の場合には、契約書に特約で、「賃貸借契約締結時 の原状に回復しなければならない」と定められているときは、文字通り、契約締結時の状態にまで原状回復して返還する義務が賃借人にある。
一般に事業用の賃貸借においては、次の賃借人に賃貸するために、契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床、照明器具などの原状回復義務を課する旨の特約が付される場合が多いです。
原状回復でもめたくない!
事業用物件において、原状回復でトラブルにならないためには、
とにかく特約で細かく決めることが重要です。
例えば、「新品に戻す」という文言は、具体的にどのような仕様に戻すのかまで書く必要があります。
退去時に全く異なる人が見ても、内容が分かるようにしましょう。